ふとした匂いで、昔を思い出すことがあります。
雨上がりのにおい。
畑を焼いたあとの、少し煙っぽい匂い。
家に帰ったとき、玄関まで漂ってくる夕飯の香り。
そんな匂いにふれると、その頃の景色や、そこにいた人のことまで一緒に浮かんできます。
香りから思い出すのは、場所や人だけではありません。食べ物から、その時期の景色を思い出すこともあります。
春は木の芽や豆ごはん
夏は茗荷や大葉
秋は焼き芋や炊き込みご飯
冬はお鍋や雑炊のお出汁
何度もふれた香りは、いつの間にか四季折々の記憶と一緒に残っています。
私は、大人になってからアロマを習い始めました。
レッスンでは、香りを嗅いで、それぞれ感じたことを言葉にする機会が何度かありました。
周りの人たちは
「みずみずしい柑橘の奥に、少し青みのある香りを感じます」
「少し土っぽさがあって、深みのある香りです」
と、まるでソムリエのように香りを表現していました。
一方、私は…
「祖母の家の箪笥の匂い」
「だだっ広い草原の匂い」
という、かなり大雑把な感じで、先生が少し戸惑っていた記憶があります。
今思うと、私は香りを
「何の香りか」ではなく
「そこから何を思い出したか」
で表現していたのかもしれません。
今では、香りは上手に説明できなくても構わないと思っています。
同じ香りでも、思い出すものは人によって違います。誰かの顔が浮かぶ人もいれば、昔食べたものや、ある場所を思い出す人もいる。
そこには、その人なりの香りの感じ方が表れているではないかと私は思います。
香りは、昔のことを思い出すきっかけになるだけでなく、自分の感じ方に目を向けるきっかけにもなるのかもしれません。
でも、毎日の暮らしの中では、そんな小さな感覚をつい見過ごしてしまいます。
食事をしながら次のことを考えていたり
外を歩きながらスマホを見ていたり。
ふと、何かの香りに気づいたとき
「この匂い好きだな」
「これ、何か思い出すな」
自分の感覚に意識が向きます。
セルフケアというと、何か特別なことをするイメージがあるかもしれません。
でも、ふと自分の感覚に目を向けることも、そのひとつだと思っています。
香りは、昔の記憶を連れてくるだけではなく、普段は通り過ぎている小さな感覚に気づくきっかけにもなるかもしれません。
今日は、好きな香りをひとつ。
お茶でも、夕飯でも、石けんでも、外の空気でも。
上手に説明する必要はありません。
ただ、感じてみて
その香りから、何が浮かぶでしょうか。





私は雨が降る直前の香りです。雨が降るな、とわかる予感の香り。あの頃、自分と肉体がもっと近かったのかなあと思います。
水森さん、春の豆ごはんから冬のお出汁まで、季節の香りの並びがすごく好きでした。
秋の焼き芋と炊き込みご飯は、ちょうど今ですね。
「玄関まで漂ってくる夕飯の香り」の一行は、読んだだけで帰ってきた人の足音まで聞こえてきそうでした。
水森さんは、今の季節だとどの香りがいちばん好きですか?